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これもちょっと昔に書いたもの

「わがまま」

 彼女は相変わらず屈折し、狂ったエロスを孕んだ絵を描いている。僕が彼女に始めて会話をした時にぶつけられた一言は「私、セックスなんて嫌いだから」という、彼女の描くものからは想像だにできないものであり、作品しか知らなかった僕にとって、その発言は衝撃的であった。

 どこから作品の構想が産まれてくるのか、それは本人にしかわからないだろう。彼女の絵は酷く好奇心をくすぐり、人の心をひきつけるものであった。しかしそれだけの作品を残しながら、彼女は創作の世界に身をおくことを嫌がり、一般人の中に埋没する事を望んでいた。あんなに穿った視点で、「罪と罰」を読む人間が、一般社会に埋没し、さらに目立たずに暮らしていく事なんて、絶対に無理だ。むしろ、あたり前のものを人と違う視点で見る事が出来るからこそ、あそこまでエキセントリックな、人の心に訴えかける凄い絵が描けるのだろう。
 才能があるんだから埋没なんかしないで、創作の世界に身を置き続けて欲しい、そう思うのは僕のわがままであり、彼女の人間性など全く無視した感情なのだろう。

 作品や考え方は勿論、好むものにもセンスが有り、彼女はとても魅力的なのだが、残念な事に不細工なのである。その容姿が違えば、あそこまで屈折した作品は残せていないであろうから、僕はそれに感謝している。こんな事を本人の前で言ったらただで済まされないのはわかっているが、彼女と言葉を交わせば交わすほど、屈折した作品が産み出される理由が、自身の容姿と、悲惨な初体験から発生している事が、痛いほどにわかるから、仕方がない。

 彼女の友人の一人であるデカダンスを体現したような男も、素晴らしく屈折した絵を描く魅力あふれる人物なのだ。「火葬場で焼かれるために産まれてきた」などと公言している人間は、彼以外知らない。彼の作り出す人形は絵とはまた違った魅力を持っており、人の心を惹きつける。若い頃、美しかったことがうかがい知れる容姿はいうまでもなく、人の目を惹く。そして、自身のことを元美少年などと触れ回っているのだから頭がおかしいことこの上ない。しかし、彼と会話をすると驚くほど謙虚で、言動の割りにナルシストとはかけ離れた人物であることがわかるのだが、変態である事は間違いない。

 彼女は、そんな人間にすら天才と言われてしまうのだから、なんとも恐ろしいものである。彼女がどんなに自分の才能を否定したところで、もって産まれたものからは逃げる事なんて出来ない。性格や能力というものは向上させる事は出来ても、切り離す事は出来ないし、ましてや顔のように整形で変えることも出来ないのだから。

 才能の乏しい僕から見たら、才気あふれる彼女は輝かしい存在でしかない。可愛くはないが、彼女の美意識や作り出す作品には惹かれっぱなしなのだ。でも、恋はしない。だいきらい、だいすき。

 爆音ひたすら爆音、ノイズが体を包み込む。どの音がどの音階なのか全くわからない、ただ振動だけが脳を揺さぶる。クスリとも、病気とも違うその感覚は、まいった心を麻痺させてゆく。音から開放されたら、僕の心はまた元のように憂鬱に支配されるのだろうか、それが怖くて音の洪水から抜け出す事が出来ない。幻覚に酔いしれ、それに寄る辺を見出すしか、逃げ道は残されていないのだろうか。
 彼女の絵に漂う、麻薬的な空気と幻覚のような色彩はどこから生まれてくるのだろうか、素面であれらを産み出しているのだとしたら、彼女は紛れもなく天才だ。放って置いても、何もしなくても世に出てくる存在ほど心惹かれるものはない。快楽に身を任せて、今日もトリップを続けよう。そこで会う彼女は、現実で会う彼女と違って美しいのだから。
 愚かな僕は、どんなに人間性が素晴らしくても、容姿が綺麗な方を選んでしまう。こんなわがままな僕を、きっと彼女は恐ろしく屈折した目で見ているのだろう。「この人は何で世を儚んでいるのだろう」、彼女が僕と接して抱いた第一印象は、こうだったらしい。
 身を削り、不毛なトリップを続ける理由、それは理想の彼女がそっちの世界に存在しているからだ。ただのわがままで、僕は自らを滅ぼしている。
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